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2018年11月11日

『シークレット・ガーデン』劇評

シアタークリエ2018年6月公演『シークレット・ガーデン』。フランシス・ホジソン・バーネットによる小説「秘密の花園」をミュージカル化した作品だ。1991年のトニー賞で脚本賞、助演女優賞、装置賞の3部門に輝いたブロードウェイミュージカルが満を持して日本初演を迎えた。

イギリス領インドで暮らしていたメアリー(池田葵/上垣ひなた)は両親を流行り病でなくし、イギリス・ヨークシャー地方に住む叔父アーチボルド(石丸幹二)に引き取られた。メアリーはひねくれた性格で癇癪持ち。誰にも心を開こうとしない。対して叔父のアーチボルドはというと、とても気難しい性格のようで妻(花總まり)を亡くしてから完全に心を閉ざしている。その息子のコリン(大東リッキー/鈴木葵椎)も遺伝性の病気の療養のために部屋に閉じこもっており、天邪鬼な性格で使用人を困らせるばかり。そんな中、秘密の花園を訪れたメアリーはそこで使用人のマーサ(昆夏美)やその弟ディコン(松田凌)と過ごすうちに少しずつ心を開いていき、ついには屋敷に奇跡をもたらして……というのが大まかなあらすじだ。

この物語では、登場人物たちの感情が庭というメタファーを通じて表現されている。今回のミュージカルではそれが特に演出を通じてうまく表現されていたように思う。

一幕はじめ、荘厳でドラマチックなオーケストラの音楽とともに幕が開くと目に入るのは、ツタの絡まった壁のようなセット。それは自分の殻に閉じこもったこの物語の登場人物たち、すなわち、妻リリーをなくして悲しみに暮れるアーチボルド、癇癪もちで両親を亡くし心に傷を負ったメアリー、そして自身の病ゆえにひねくれたコリンを表現しているようだ。しかし、そうやって閉じこもっていることが彼らの本意ではないということは役者の演技や、そのツタの絡まるセットからこぼれる暖かい光から容易に想像できるよう演出が工夫されていた。

最初にその殻を破ったのはメアリーで、リリーの庭園を見つけその灰色の庭園を緑あふれる生き生きとしたものに育てていく中で自身の心にも光が溢れるようになった。その庭を訪れたコリンは庭が成長していくように自身の病を克服していく。そしてその子どもたちの様子を見たアーチボルドは自身の悲しみを乗り越えメアリーやコリンとこれからを生きていくことを約束する。最後の場面で、照明が明るく輝き、舞台一面に花が咲き乱れる様子は登場人物たちの暖かな気持ちとリンクして、私の目にはとても美しく映った。

また、この舞台では役者たちの技量も光っていた。まずアーチボルド役の石丸幹二だが、その歌唱力は健在で特にアーチボルドの弟ネヴィルを演じる石井一考と歌う“Lily’s eyes”は圧倒的迫力だった。またリリー役の花總まりはセリフがほとんどないのにも関わらず、暖かく登場人物を見守る、愛にあふれた優しい雰囲気をまとった女性として存在感を示していた。子どもたち二人を見守るマーサ役の昆夏美はソロ曲”Hold on”で困難に立ち向かうメアリーを力強い歌声で後押しする。子役2人も好演だった。

登場人物たちが庭で見つけたものは果たして”秘密の花園”だけだったのだろうか。いや、私は彼らがそこでたくさんのものを見つけたように思う。それは、思いやりであり、友情であり、家族愛であり……。その中で、メアリー、コリン、アーチボルドは自分自身の”命の芯”を育てていく。この『シークレット・ガーデン』は彼ら登場人物の姿に美しい演出と音楽で彩りを添え、私たち観客に毎日を生きていく勇気を与えてくれた。終演後に劇場内で流れる”Wick”のメロディーは私たち観客のこれからの人生をもささやかに後押ししてくれているようであった。

(文責:杉下)

【公演情報】
ミュージカル『シークレット・ガーデン』
日程:2018年6月11日(月)〜7月11日(水)
会場:シアタークリエ
脚本・歌詞:マーシャ・ノーマン
音楽:ルーシー・サイモン
原作:フランシス・ホジソン・バーネット「秘密の花園」
演出:スタフォード・アリマ
出演:キャスト:石丸幹二、花總まり、石井一孝、昆夏美、松田凌、池田葵、上垣ひなた、大東リッキー、鈴木葵椎、石鍋多加史、笠松はる、上野哲也、ほか