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2018年10月24日

さいたまネクスト・シアターØ 世界最前線の演劇1[ベルギー]『ジハード―Djihad―』 レポート

来月11月8日に開幕するさいたまネクスト・シアターØ 世界最前線の演劇2『第三世代』。それに先駆け、前回の世界最前線の演劇1『ジハード―Djihad―』の公演の劇評、そしてアフタートークの様子をお届けします。

劇評

6月27日、彩の国さいたま芸術劇場公演「ジハード」。物語は主人公イスマエルのモノローグから始まる。ベルギー社会におけるイスラム教徒、ムスリムコミュニティ、家族、差別、ジハードの概念についてとうとうと語るイスマエル。そして最後に彼は観客に向かってこう告げた。「ジハードを愛してほしい。」
 これを聞いたとき、正直、私はそんなことは無理だ、と直感的に思ってしまった。テレビで流される、ジハードの名のもとに行われてきた紛争やテロの惨劇の数々を目にしてきた私にとってジハードには悪というイメージしかない。どうしてそんなことができるだろうか、その疑問を胸に残し、物語は進んでいく。
 ベルギーの移民2世のイスマエル、ベン、レダはシリアでのジハードに参加しようと集まった。竪山隼太演じる信心深くしっかり者のベン、ちょっとお馬鹿で、でも憎めないキャラクターの小久保寿人演じるレダ、そして今を懸命にもがき生きている堀源起演じるイスマエル。3人の個性が見事に演じ分けられており、役者の力量を感じる。個性豊かな3人の掛け合いはこれから戦地に赴くとは思えないほど“普通”で、観客からも何度も笑いが起こった。ただ、やはり日本人にはイスラムの教えや概念についてはわかりにくいところも多く、用語解説のプリントが配られてはいたが、もう少し工夫があってもよかったのではないかと感じた。
ベルギー社会にもムスリムコミュニティにも居場所がなく、愛するものを禁じられた3人は、唯一自分たちが必要とされていると感じた場所、シリアに旅立つ。戦闘の続く極限状態の中で、彼らが見たもの、考えた事とは―。
 この舞台は全体を通して、ギャップの際立った物語に仕上がっていた。最初のベルギーのシーンからシリアの戦地でのシーンまで、コミカルな3人の掛け合いのおかげでいつまでもこの舞台からは笑いが絶えない。彼らは、スマホで電話をしたり、イヤホンでiPodから音楽を聞いたりまるで現代日本の若者のようだ。また、舞台には戦争を感じさせるものが一切ない。戦車もがれきもなく、3人の持っている銃も木でできたレプリカ。これを見ているとこれは本当にあの内戦下のシリアなのかという錯覚にさえ陥る。しかしそう思ったのもつかの間、その夢想はあっけなく崩れさる。敵の接近を予感させる騒がしい虫の声、そして始まる銃撃戦。その爆撃、銃撃の音はあまりにもリアルで、私たちが確かに戦地にいるのだということを実感させる。この笑いとシリアスのギャップが戦争の恐ろしさを際立たせるとともに、このジハードをより身近なものに感じさせた。
 戦地において彼らのアイデンティティは崩壊していく。むやみやたらと信じてきたイスラムの教え、シリアに行けば居場所があると考えてきた楽観的な考え、すべてが崩れ去っていく。1人、また1人と人が死んでいき、最後にはイスマエルがただ1人取り残された。アフタートークにおいて作者イスマエル・サイディさんはこの3人全員が自分自身だとおっしゃっていた。そう考えると、信心深いベン、楽観的なレダが1人ずつ戦地で亡くなっていき、最後にイスマエルが取り残されるのは、1人の若いイスラム教徒のアイデンティティが1つ、また1つと剥がれ落ちていくことのメタファーのようにも感じる。
 1人生き残ったイスマエルにベルギーで居場所はなかった。シリア内戦に参加した彼に仕事などあるはずもなく、社会からも、ムスリムコミュニティからも、家族からも見捨てられた。憎しみに溺れた彼は、自爆テロを決意する。イスマエルを演じた堀源基は精神が、アイデンティティが崩壊し、どうしようもなくもがき苦しむイスマエルの姿を激しく、かつ丁寧に演じきった。最後にイスマエルはその爆弾のボタンを押してしまったのか。物語はまぶしく輝く真っ白な光に包まれて終わる。
 私たちは普段テレビやSNSで中東の内戦のニュースやISに参加した若者の話を聞いても自分には関係のないこと、とその現実から目を背けてしまう。だがその無関心こそが彼らを戦闘に向かわせているのではないだろうか。彼らが求めているのは殉教でも、もちろん戦闘でもなく自分の居場所だ。自分は1人じゃないと思えること、自分は必要とされていると感じられること、それは彼らムスリムの若者に限ったことでなく私たち全員が必要としていることでもあるはず。だから、まず彼らを知ることから始めよう、彼らの一生懸命・奮闘=ジハードを愛せるように。そう思わせてくれる舞台「ジハード」はまさに現代社会が必要としている作品だと感じた。今後の再演に期待する。(杉下はる)

アフタートークレポート

彩の国さいたま芸術劇場では、さいたまネクストシアターの新たな取り組みとして、「世界最前線の演劇」が今年度からスタートしました。
その第1弾として6月25日~7月1日に上演された、『ジハード-Djihad-』。インタビュー形式で行われたアフタートークの様子をお伝えします。

本作はベルギーで初演、その後イタリア・オランダ・モロッコ・カナダ・レユニオン島で上演され、ヨーロッパで累計約30万人もの人々が足を運びました。2016年には、国際演劇協会日本センターによる「紛争地域から生まれた演劇」シリーズとしてリーディング公演され、今回が日本初演となります。

アフタートーク:6月26日
ゲスト:イスマエル・サエディさん(作者)、瀬戸山美咲さん(演出)

―イスマエルさん、日本版『ジハード』をご覧になった感想は?

とても感動しました。笑い、泣きの感情を体験できました。日本でもエモーションの生まれる場所が一緒でした。それを皆さんと共有できて良かったです。

―日本での上演をどう受け止めている?

私はフランスで演出をし、またイスマエル役で350公演に出演しました。様々な国で、その国の言語、文化、役者で上演されていて、世界を旅することができるのが文化だと感じました。
私の日本との出会いは7、8歳のころに見ていた、日本のアニメや漫画です。その漫画は、この戯曲の中にも登場しています。日本にこの戯曲が行くことは想像もしていませんでしたが、私の文化が演劇を通して伝えられたことを嬉しく思います。日本のチームが創り上げたものが素晴らしかったです。

―高校生や十代の若者が多く観ているが、そのことについては?

この戯曲は2014年に生まれ、プロローグは全て事実です。文化大臣がこの作品をご覧になり、教育の一環として中高生向けに上演してほしいと要請されました。この作品を観た約42万人のうち、約22万人は中高生です。終演後、彼らとジャーナリストも交えてトークセッションも行いました。

―劇場に、文化大臣や中高生を呼んだ経緯は?

要請を受け、学校を巡回するのではなく、彼らから劇場に来てほしいと頼みました。劇場はエリートクラスのものではなく10代の彼らのもので、劇場で旅をすることを大切にしてほしかったのです。そしてオペラをやるような大きなホールに、たくさんの学校がバスを連ねて来るという現象が起きました。

―パリ同時多発テロの現場近くの劇場での上演、ご遺族の方も多く訪れたことについては?

パリ同時多発テロのご遺族の協会からの要請で2016年12月に上演しました。観に来られた方の中には、目の前で家族が亡くなった人、妻の遺体に隠れて助かった人がいました。終演後は、本編1時間50分に対して2時間45分のトークセッションが行われました。

―瀬戸山さん、このお話が来た時はどう感じた?

2年前、リーディング公演でこの作品を初めて観たときは、笑いの要素をどう演出しようか考えました。ベルギーで若者向けのものを観劇したのですが、冒頭から笑いで包まれ、その雰囲気に驚きました。そこで出会ったある女性とお話しした際、彼女の息子は引きこもりになり、ISに参加し、行方不明になったのちに殉教したと連絡が入った。という事を聞きました。また、学生とのディスカッションを通して、今この演劇をやることの必要性を感じました。
笑いのディテールについてですが、彼らと私たちが日本のアニメなどを通して触れた文化が同じで、親近感を覚えました。移民2世、ムスリムの立場・習慣・概念は知らないことが多く、俳優と共に勉強しながら創っていきました。

―イスマエルさん、登場人物はベルギーとムスリムの社会の中で揺れ動くが、それぞれの社会にはどのような反響が?

まず、この公演が成功するための2つのポイントは、テキスト・シナリオと、俳優・演出のクオリティにあります。今回出演したこの4人は、彼らがその場に本当に存在することを信じさせてくれました。照明・音楽も素晴らしく、これを創り上げた彼らに“Wow!”を送りたいです。この作品に登場するイスマエル、ベン、レダは私の中の3要素で、25年前の私を写し取ったものです。この話に出てくる状況は、移民2世の方誰もが味わうものです。そしてこの作品のテーマは「戦争」、「宗教」などではなく、「アイデンティティ」です。私自身、「アイデンティティ」とは何なのかまだわかっていませんが、それはラザニアのように多層なもののように感じています。その層が上手く重なり合っていない人、混ざり合っていない人が、彼ら3人のような疎外感を味わうのだと考えています。

―この作品では、「同化」の圧力をかける人、ジハードに参加する若者の両方に注目しているが、ヨーロッパではどのような攻撃、批判を受けたか?

私自身驚きましたが、攻撃や批判は少なかったです。フェイスブックに批判的な意見が1、2個ありましたが、脅迫などはありませんでした。このプロジェクトの魔法かもしれません。服役中の人、ムスリム、ユダヤ教徒、警察官、軍人など様々な人に向けての公演もしましたが、そこでも攻撃はありませんでした。

―公演先を決めるのには何か意図があるのか?「同化」が大きなテーマになっているが、アイデンティティの層が混ざりきることが「同化」といえるのか?

今までにイタリア、オランダ、モロッコ、カナダ、レユニオン島をツアーで回りました。要請があれば各地へ伺い、そこの言語に合わせて上演しています。
「同化」とは、外のものを内側に混ぜるという意味です。移民である私の父は、「同化」しなければなりませんでした。しかしベルギーで生まれ育った移民2世に対して「同化」しろというのはおかしいです。最近では「同化」が政治用語になってきていて、何か移民問題が生じると「ああ、同化の問題か。」と言われるようになってしまいます。
また、ラザニアのようなアイデンティティの層を混ぜることは理想ではありません。1人の人間には色々な面があります。私はベルギーで生まれましたが名前はフランスの名前で父はモロッコからの移民です。それから、私はカトリックの学校で学んだ後、イスラムの学校へ行きました。皆さんが「日本人」というのも1つの要素です。多層なラザニアのまま受け入れることが大切です。日本のお弁当は色々なものを一緒に食べますね、アイデンティティも同じです。

(吉枝里穂)

【公演情報】
さいたまネクスト・シアターØ(ゼロ)世界最前線の演劇1[ベルギー]『ジハードーDjihad―』
公演日程:2018年6月23日(土)~2018年7月1日(日)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO(大稽古場)
作:イスマエル・サイディ
翻訳:田ノ口誠悟
演出:瀬戸山美咲
出演:さいたまネクスト・シアターØ(ゼロ) 堀 源起、竪山隼太、鈴木彰紀 /小久保寿人

【公演情報】
さいたまネクスト・シアター 世界最前線の演劇2 『第三世代』[ドイツ/イスラエル]
公演日程:2018年11月8日(木)~2018年11月18日(日)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO (大稽古場)
作:ヤエル・ロネン&ザ・カンパニー
翻訳:新野守広
演出:中津留章仁
出演:さいたまネクスト・シアター 周本絵梨⾹、⼿打隆盛、松⽥慎也、内⽥健司、續⽊淳平、阿部 輝、井上⼣貴、佐藤 蛍、⾼橋英希 / 清瀬ひかり(劇団⻘年座)