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現役高校生・大学生による
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2018年10月2日

第4回 桂 真菜〈舞踊・演劇評論家〉

演劇の楽しみ方を教えて頂いたので、少し厳しい面から質問をさせていただきます。現在、演劇以外のエンターテインメントが盛んになり、若い世代の演劇離れが言われています。そのような中で、桂さんが演劇について思うことを教えてください。

 たしかに、観る側も演じる側も身体を会場に運ぶパフォーミング・アーツは、大変に思えるかもしれません。チケット代や交通費もかかります。でも、眼前のライブ上演は、他の何にも代えがたい体験をくれる。同じ場に集う人々と、不思議な力を共有するダイナミズムは、まさに生きる喜びです。
 一方、テクノロジーを駆使した演劇にも私は興味がつきません。生身の人間が演じる芝居とテクノロジーは、表現の幅を広げる仲間にもなり得るんですね。例えば、平田オリザさんとロボット工学者の石黒浩さんが開発したロボット演劇は、人の感情の源泉を考えさせます。平田さんが作・演出したカフカ原作『変身』でのフランス人俳優とアンドロイドの共演は、原作にはない家族の絆を浮上させました。今後ますますバーチャルリアリティーも発達していきます。それにつれて「自分が身体をもって存在していることを確認したい」と願う人が増えると思います。「人間とは何か」という問いに応える演劇やダンスの価値が、再認識される可能性もあるでしょう。

続いて海外の作品に目を向けます。海外の演劇祭にも造詣が深い桂さんですが、特に印象的だった作品はありますか?

 海外の演劇祭では石切り場、教会、テニスコート、走る電車など、通常のシアターとは違う会場の上演が楽しみですね。印象的だったのは2013年にウィーン芸術週間で見たクリストフ・.マルターラー演出『最後の日々、前夜』。アテネのパルテノン神殿を模した優雅なオーストリアの国会議事堂の会議場で、差別に反対する音楽劇が上演されたのです。第一次世界大戦から100年後の初夏に上演された同作の俳優はオペラからポップスまで歌いこなせます。生演奏される音楽は全て迫害されたアーティストたちが作曲したものです。
 第一次世界大戦で弱体化したオーストリアは、第二次世界大戦ではナチスの政策に協力しました。ユダヤ人、身体の不自由な人、同性愛者等の社会的少数者を迫害したのです。上演中の議事堂は犠牲者を悼む、祈りの場となりました。テクストは戯曲を使わず、政治家が誰かを排斥する演説のコラージュ。過去の反省に立って、オーストリアは「社会の光」となるウィーン芸術週間を設立しました。近年は多くの演劇祭で難民を擁護する作品が目立つように、単なる娯楽ではない意義がプログラムに求められます。開催地の姿勢を示すショールームの役割を担う国際フェスティバルでは、人々を対話に導く企画が秀逸ですね。

劇評を書く際、大切なこととは――――

今後我々NeSTAがより魅力的な劇評を書いて掲載するために、“劇評を書く”ことについて、アドバイスをお願いいたします。

 劇評をつづる時は対象となる作品を観ていない人にも、上演を通して得たことを届ける工夫が大切です。既成のパターンに当てはめないで、手探りで試行錯誤して下さい。少し長い文を書くと、自分が作品から何を感じ、どう解釈したか、明確に把握しやすくなるでしょう。文字数が少ない場合は、一番訴えたい点を中心に組み立てると、いきいきした感覚が読む人に伝わるはず。“パフォーミング・アーツに何を見出すか”。それは劇評を記す人自身の生き方と響きあいます。ニュースや社会問題に敏感な人は、普段考えているテーマに、舞台で気になったことを重ねると、突破口が開けるかもしれません。勿論、百人いたら百通りの劇評があるから、基本は自由です。ひたすら美を追究する、という方針でも構わない。ただ、美とは何か、これは本当に美しいのか、という真摯な問いが自身の中にないと、ドラマの背景を捉える手がかりが見つけにくくなります。常套句的な言い回しや、予定調和にまとめる文章は大敵。感動という語彙は必要か、と表現する言葉も吟味してほしいですね。どんな角度で迫るにしても、懐疑心を忘れずに、自ら考えないと批評は成立しません。

 それから、資料や戯曲が入手できれば、読んでから書くほうが充実した内容になるでしょう。作品のここに抵抗を感じた、という点から入っても、書く過程で新鮮な発見ができますよ。「これ嫌い」って否定したいものを、あらゆる方向から眺める作業は、普段は意識できない自分の内面に気づくチャンスです。

最後に、学生へメッセージをお願いいたします。

 「広い視野で色々なものを、多角的に見ましょう」これは私が一番学生の方に言いたいことです。

 今後、劇場に行けない時期があっても、パフォーミング・アーツの魅力を忘れないでほしい。希望を捨てなければ、おそらく次の機会がきます。周囲の理解が得にくいときもあるでしょう。「芝居なんて役に立たない」という相手には、優しく自分が芝居で得たことを話してくださいね。未知の局面を想像する力も、日常ではかき消されてしまう小さな声を聴きとる繊細さも、演劇鑑賞で磨かれます。多様なものを理解する柔軟さと、沢山の人への共感を育むために、なるべく違うタイプのパフォーミング・アーツにふれておきましょう。

  聞き手=久留原 有希、小野 真子、赤澤 みなみ 編集=赤澤 みなみ

取材後記

 終始柔らかい雰囲気で、多くの舞台に触れ、文章を紡いできた人ならではの言葉を語ってくださいました。「演劇に触れることが人生にどう影響を与えるのか?どんな素敵な効果をもたらすのか?」という問いの1つの答えを知ることができ、とても心が満たされました。(久留原)

 国内外のかなり昔の作品から、最近の作品まで幅広く話してくださり、とても興味深く、面白く勉強させて頂きました。貴重なお話をありがとうございました!お話を伺うなかで、改めて芝居の持つ力を感じました。文化や政治、社会に大きく影響するかと思えば、一人一人それぞれに訴えかけてくるものもあり。これからは特に、枠にはまった捉え方で演劇を観るのではなく、自由に受け止められるよう、1つずつを大切に観ていきたいと思いました。(小野)

 今回のインタビューでは、桂さんが編集に携られた雑誌を拝見しながらお話を伺うことで、作品の楽しみ方が広がると共に、自分自身が色々な見方ができるようになりたいと感じました。また、頂いたアドバイスを、我々NeSTAの今後の活動に活かしていきたいです。非常に貴重なお話を本当にありがとうございました。(赤澤)

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