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2018年10月2日

第4回 桂 真菜〈舞踊・演劇評論家〉

撮影=NeSTA

 演劇人インタビュー第4回は、舞踊・演劇評論家として活躍されている桂真菜さん

 演劇の楽しみ方、印象に残っている作品、劇評を書く際のアドバイスなどを、1つ1つ丁寧にお話ししていただきました。幼少期から現在に至るまで、国内・国外問わず多くの演劇作品を見てきた経験に根差す、貴重な言葉をお届けいたします。

桂 真菜(かつら まな)

 舞踊・演劇評論家として新聞、雑誌など複数のメディアに寄稿。 (株)マガジンハウスの編集者(雑誌ブルータス、書籍「アンのゆりかご、村岡花子評伝/村岡恵理著」「シェイクスピアの英語で学ぶここ一番の決めゼリフ/中野春夫著」「現場者/大杉漣著」等)を経て現職。海外の実験的な舞台から伝統芸能まで、ジャンルを超えて多彩なパフォーミング・アーツを巡り、芸術と社会の関係を探究。美術批評や書評も手掛ける。国際演劇評論家協会(AICT)会員。早稲田大学演劇博物館招聘研究員。

幼少期から現在に至るまで――――

はじめに、桂さんはいつ頃から演劇に興味を持たれたのですか?

 子供の時から好きでした。小中学生のときは家族に連れていってもらった新劇や新派で、文学を基本におく芝居を見ました。高校時代には新聞やチラシで、実験的な演劇の危険な匂いにふれました。既成の秩序や常識をひっくり返すアンダーグラウンド文化には、自由な解放区というイメージを抱きましたね。唐十郎さん率いる状況劇場・紅テントや寺山修司さん主宰の演劇実験室・天井桟敷のニュースを聞くたび、“早く行きたい!”と憧れました。

幼少期から芝居を見られていたと言うことで、今でも印象深い作品は何ですか?

 母や祖母と行った宝塚で悲恋ミュージカル『霧深きエルベのほとり』(菊田一夫脚本)に号泣しました。男装の麗人が歌い踊る非日常的なステージにうっとり。小学校の遠足では日生劇場に行き、観客参加型の劇団四季ミュージカル『王様の耳はロバの耳』(台本・寺山修司、演出・浅利慶太)を見ました。何十年も前に一度だけ俳優たちと合唱した歌は、宝塚の歌と同様、今も覚えています。
 ハイティーンになってからはひとりで色々な劇場を訪れ、アングラ演劇の異形の美に圧倒されました。櫻社『盲導犬』(唐十郎作、蜷川幸雄演出)では、緑魔子さんや石橋蓮司さんの演技に魅了されました。紅テントの疾風怒濤のロマン『二都物語』(唐十郎作・演出)では、池から役者たちが机を担いで現れ、びしょ濡れのまま舞台で大あばれ。やがて赤い木馬が出てくると、悲しくないのに、何かが本能に突き刺さったように涙がほとばしって……。最後にテントが開き、赤い木馬に乗って李礼仙(現在は、李麗仙)さんが水の上を遠ざかる場面には、熱狂と詩情が渦巻き別次元にさらわれそうでした。早稲田小劇場『劇的なるものをめぐってⅡ』(鈴木忠志演出)に主演した白石加代子さんが、鶴屋南北やベケットの芝居から引用した言葉とともに変貌する姿は、物の怪が憑依したかのよう。十代のときは作品に衝撃を受けるたびに、パフォーミング・アーツを深く知りたい思いに駆られました。

大学時代、芝居に夢中になった桂さん。就職してしばらく観劇から遠ざかったそうですが、転職を経て前職((株)マガジンハウスの編集者)で長年活躍されました。前職の経験から、現在に活かされていると感じることは何でしょうか?

 雑誌では衣食住やデザインを通して、ライフスタイルを読者に提案しました。撮影や取材の準備で、色々な建築やインテリアを比べ、テーマに合う環境を探す。その習慣が身について、舞台を見る時、スペース全体を捉えます。装置の色彩・質感と俳優やダンサーが着る衣装が合っているか、という点にも注目します。近年は美術や衣装が簡素なケースが増えました。でも、どんな上演であろうと、空間におけるオブジェや人のバランスは重要。照明、音、小道具も含め、作品を“総合的に見る”ことは、誌面を構成する編集に通じるような気がします。

演劇の魅力とは――――

次に、演劇全体についてのテーマに移らせていただきたいと思います。
今回、桂さんには、前職で編集を担当されていたBRUTUSの「ブルータス流シェイクスピア講座 シェイクスピアだよ人生は。」特集号(※下図)

をお持ち頂きました。その内容も合わせて、広範囲に演劇を楽しむ方法を教えていただけますか?

 古典を知っていると楽しみがふくらみます。映像や美術などアートにおけるシェイクスピア作品の広がりと、私たちの暮らしにも息づく影響を、総合的に見渡せる特集を組みました。まず、シェイクスピア作品を例に誌面で伝えた、演劇の見方について話しますね。シェイクスピア戯曲は国境を越えて親しまれているでしょう。各地の事情や演出家の視点に応じて変奏されるので、原作を読んでいれば同じ演目を比較する面白さを味わえます。演出家の解釈が空間や音楽と連動してイメージを決定づける舞台は、原作とは物語も登場人物の数も違う場合が少なくありません。『ハムレット』や『ロミオとジュリエット』は何度も上演されていますが、主人公のキャラクターは本当にいろいろ。各舞台が何故そのように仕立てられたのか? 謎を解く鍵は、原作と変奏の差異にも潜んでいます。
 四百年以上前に書かれた戯曲でも、現代化にあたってスマホが小道具に使われる例もあります。日本では狂言、歌舞伎、文楽、落語など伝統芸能の様式でも上演されてきました。アメリカでは『ハムレット』の翻案といえるディズニーアニメ『ライオンキング』が、ミュージカル化されました。20世紀のニューヨークで移民の若者グループが争う『ウエストサイド物語』は、『ロミオとジュリエット』の変奏です。
 最近は物語を解体した上演も増えましたが、舞台の受け取り方は観客ひとりひとりにゆだねられています。また、シェイクスピアの名台詞は、現実生活でも使えます。スピーチやおしゃべりに入れても愉快。幾つか英語で覚えておけば、海外の方とも会話が弾むかもしれませんよ。私は言葉の楽しみも伝えたくて、「シェイクスピアの英語で学ぶここ一番の決めゼリフ」という単行本を編集しました。
 シェイクスピア作品を知っていると、美術鑑賞の楽しみも増します。芝居に触発された画家による絵に感動した演劇人が、絵に描かれた要素を舞台に取り入れる。そんな交流は、今日も続いています。

 ちなみに、日本の古典を現代化した芝居も、過去と未来をつなぐスケールの大きさを感じさせますよ。例えば、木ノ下裕一さん主宰の木ノ下歌舞伎。伝統芸能の精髄に今の若い人のセンスをちりばめ、躍動感あふれる現代演劇に再生します。『勧進帳』(杉原邦生演出、初演版)には女性や外国人の俳優も出演し、ラップやコンテンポラリーダンスも織り込まれました。歌舞伎の知識がなくても面白いです。けれど、基礎となる歌舞伎を見ていれば解釈のポイントが分かり、一段と深く楽しめます。

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