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現役高校生・大学生による
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2016年11月6日

こまつ座『木の上の軍隊』稽古場レポート

提供=こまつ座 撮影=田中亜紀

 『木の上の軍隊』の稽古場にお邪魔してきました。 本日は初めての通し稽古とのことで、舞台上には『木の上の軍隊』における印象的なモチーフであるガジュマルがセットされ、向かいに並べられた長テーブルにはスタッフの方々が並んで座っていました。その背面の壁には牛小屋方面、野営地方面など書かれた紙が貼られており、場が一つに固定されたこの劇での方角の重要さが伺えます。  

 舞台上では既にキャストの方々が台詞や配置の確認をしていました。またヴィオラの有働皆美さんに対しては音楽の久米大作さんが直接細かい指示を出されています。衣装の準備をしながら長ゼリフを諳んじている新兵役の松下洸平さんの姿からは、通し稽古に対する真剣さが伺えます。  

 それまで色々な人が出入りしたり衣装の準備をしたりなどしていた中、いよいよ通し稽古の用意ができ、スタンバイOKの合図とともに照明が落とされると空気は一転します。しんと静まりかえった中では台本をめくる音を立てるのすら躊躇われるほどの緊張感が広がります。

 スタッフの方々はほとんど通し稽古の最中に指示を出すことなく、皆さんメモを取りながら淀みなく進んでいく舞台を見守っています。劇場よりは狭く、また舞台との間にほとんど高さの差がない稽古場では、役者の方々との距離がとても近かったです。しかしそれ以上に、役者の方々の演技の迫力によってより一層迫ってくるような印象を受けました。後半で舞台上から花道へと降りて来たときにはっと全く同じ現実の場にいたことに気がつかされたほどに、ガジュマルの精霊である女の語る世界に引き込まれてしまいました。  

提供=こまつ座 撮影=田中亜紀

 さて、私は今回改めて『木の上の軍隊』を観る中で、上官と新兵、一体この二人のどちらに共感すればいいのかを考えました。前半の時点では、キャラクターとしての理解は上官の方がわかりやすいと考えたものの、しかし後半へと移ると、上官の言動の変化に不可解さを覚え、新兵に残るわだかまりの方が理解しやすい感情になっていきます。これは二人の登場人物それぞれの多面性によるものだと考えます。それによって二人の兵隊の衝突や葛藤がより明らかでヒューマニズムを帯びたものになるのでしょう。

 そしてそれは、以前の上演から引き続き出演されていらっしゃる山西惇さんはもちろんのこと、今回新しくキャスティングされた松下洸平さんの大らかで人間味のある素朴さも大きく影響しているように思われます。そして語る女としてキャスティングされた普天間かおりさんのすっと沁み渡る歌声は、ガジュマルの少し非現実的な二人だけの空間と観客との境界を曖昧にします。今後の稽古を通してこの舞台がどのように高められて行くのか。公演を向かえる日が楽しみです。

提供=こまつ座 撮影=田中亜紀

 戦争を題材にした演劇と言うと、その題材だけで忌避してしまう方も居るかもしれません。しかし『木の上の軍隊』は戦時中の凄惨さよりも、争いの後に残されたわだかまりを中心に据えており、強いヒューマニズムを思わせる演劇です。そしてそれは基地問題など現代に依然として残された問題を強く想起させます。ぜひあまり肩肘を張らずに劇場に足を運んでみて頂きたいです。(文責・靨紗貴)

提供=こまつ座 撮影=田中亜紀