NeSTAロゴ

現役高校生・大学生による
舞台芸術情報サイト

2018年4月16日

文学座4月アトリエの会『最後の炎』ゲネプロレポート

4月13日に行われたゲネプロの様子を2名によりお伝えしていきます!

 文学座4月アトリエの会公演『最後の炎』ゲネプロにお邪魔させて頂きました。小劇場の中に足を踏み入れると、土俵のような円形の舞台の周りを取り囲むかのように整然と四角く椅子が並べられていました。数名のスタッフや文学座の研究生たちも続々と客席に座り、穏やかな雰囲気が流れていきます。上演時間になると、どこからともなく役者たちが客席の横の階段に現れ、枝のような1本の木が伸びているだけのシンプルな舞台へと向かってきました。この公演では、舞台がほぼずっと回転速度を上げたり下げたりしながら盆のように回転し続けていたのですが、所謂「シアター形式」の舞台と違い、役者たちは360度全ての方向から一挙手一投足を全ての観客にみられることになるので、役者には高度な演技力と表現力が必要とされるのだろうと感じました。しかし舞台が変わっているくらいでは決して揺るがない8人の役者たちの演技は圧巻で、通し稽古とは思えない本番さながらの出来栄えでした。

 男女4名ずつ、計8人の役者が「数年前の8月のとても明るい正午」のこと、つまりエドガーという8歳の少年が車にはねられて死んだ時のことについて、一人ひとり、記憶の断片を語っていきます。この物語では、それぞれの人生を根本から変えてしまったエドガーの死というできごとを再構成するために集まった8人が結集し、共同体となって、過去を取り戻そうとしていくのです。しかし、そもそもエドガーは故意に殺されたわけではありません。薬物使用の男の運転する猛スピードで走る車をパトカーが追いかけ、エドガーは彼と一緒にいた帰還兵の見ている前でたまたまそのパトカーにはねられてしまうのです。

 不幸な事故といってしまえばそれまでのことですが、エドガーの死にかかわった人がそれぞれ後ろめたさを感じ、自己嫌悪に陥って、自分が幸せになるのを妨げようとします。事故現場に居合わせた人々だけでなく、男に車を貸していた女やエドガーの両親までもが、「自分があの時こうしていれば(或いはこうしていなければ)」という自責の念に駆られることとなるのです。事故の後、パトカーを運転していた女性警官は爆弾魔を捕まえることに夢中になりすぎるあまり精神が病んでしまい、唯一の事故の目撃者である帰還兵は自分の爪をやすりで削り続けることをやめず、猛スピードで運転していた男はノミだらけで真っ黒な部屋から一歩も外へ出ようとしない…。「自分は悪くない」と自分に言い聞かせても後悔や後ろめたさがどうしてもぬぐいきれない、そんな人間の奥深くの弱さが如実に描かれている舞台でした。

 この『最後の炎』の作品紹介には「誰もが目を背ける現代社会の現実を執拗に容赦なく描く衝撃作」とありますが、まさしくその通りだと思いました。残酷な現実からは人間は目を背け逃げてしまいがちで、ともすればそれは社会から忘れ去られてしまうかもしれませんが、この作品に出てくる8人の人々は、勇敢にもその残酷な現実に目を向け立ち向かっていきます。彼らは私たちに人間の弱さでもあり、また強さでもある部分を見せてくれたような気がしました。(文責:古門)

ここ最近、日本でも数々の作品が上演されて注目を集めるドイツ演劇。文学座アトリエではドイツ現代演劇を牽引するデーア・ローアーによる戯曲『最後の炎』が開幕しました。今回は初日前に行われたゲネプロの様子をお伝えします!

 作品はある少年が交通事故に遭い、亡くなることから始まります。少年の事故を語るのは、彼に、または事件に関係のあった人々。言葉が雪崩のように押し寄せ、語られる中で、少しずつそれぞれの語り手の生活が浮き彫りになっていきます。登場するのは少年の両親、祖母、犯人の友人、犯人の元教師などなど。一見バラバラの世界に生きているように見えていた彼らが、まるで弁図のように重なり合いながら生きてきたことが場面が展開する中で、徐々に明かされていきます。8人の登場人物が時にすれ違い、また触れ合いながら生きて、自分を語る様を照明や盆などを駆使しながら立体的に表現しています。

 この作品は多層的な「語り」によって構成されているのが魅力の一つ。生活の中にある言葉を喋る、自分の思いを観客に語る、ある人の状況を他の登場人物が語る……。シーンによって、またシーンの中でも台詞によって語り方が変わっていきます。そして、何と(または誰と)繋がっているのか、によっても照明や音響に細かな違いがあります。細やかな表現から受け取るものがいくつもある、受け取る世界が観ている人によって違う、それも魅力のひとつかもしれません。

 そして「語り」はラストシーンに近づくにつれてますます熱を帯びていきます。8人の俳優陣による語りのアンサンブルが見事に合わさるラストシーンに至るまで、約2時間ノンストップで舞台は進行します。狂おしい人間の営みの苦しさ、そして力強さには胸を打たれずにはいられませんでした。

 傷つき、癒しを求めあう他人は、一見何を考えているのか分かりません、それを知ろうとしない限り。舞台を通して見える世界、それは共に作品を劇場で共有している向かいの客席。濃密な空間から生まれる『最後の炎』には、観客が舞台を観る、作品が観られる、という関係に収まらない多層的な共犯関係がいくつも含まれています。是非『最後の炎』を観に、作りに、劇場まで足をお運びください!(文責:小林)

【公演情報】
『最後の炎』
作:デーア・ローアー 訳:新野守広 演出:生田みゆき
日程:2018年4月14日[土]→28日[土]
会場:信濃町 文学座アトリエ
後援:公益財団法人 日独協会、在日ドイツ商工会議所
協力:ゲーテ・インスティトゥート、東京ドイツ文化センター