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現役高校生・大学生による
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2016年9月13日

第2回 岡室 美奈子〈早稲田大学 文学学術院教授/坪内博士記念演劇博物館館長〉

教育者として

―授業の際に意識されていることは。

日本のこれからの文化を作っていけるような人、文化を受け止められるような人を育てたいという気持ちがあります。私は最近テレビ研究が中心となっているんですが、いま若者のテレビ離れなんてことが言われています。でもテレビというのはやはり生活に直接かかわるメディアですよね。視聴率の良し悪しではなく、どんな番組がいい番組かを考えられる人を特に育てたいと思っています。

―学生と接していて感じることは。

特に表象・メディア論系では自ら表現することに関心が高い人が多いように思います。外に向かって自分を表現する人ですね。それはとてもいいことだと思います。ただ、気になるのは、知らないことに対する興味が薄いように思えるところですね。知らないことを学ぶから楽しいのだと私は思うんですが、最近の学生たちは関心のある所を入口にしないとなかなかついてきてくれないですね。

―知らないことに興味を持たなくなってきた理由は。

時代の流れとしてあるんだと思います。ネットで自分の興味のある情報のみをピックアップするから、だんだん自分の関心の範囲だけで世界が出来上がってしまっているのではないでしょうか。そうしたこともあって、他者への想像力を喚起するような授業をしていけたらと考えています。

―具体的には。

いまテレビ文化論演習という授業でテレビドラマと震災という題材を扱っています。被災者でない以上、被災者の気持ちになるというのは不可能だけど、震災を描いた作品に触れることでそこに近づくことはできますよね。もちろん限界はありますけど。作品を通して自分が体験しなかったことに近づいていくっていうのはすごく可能性があることだと思うんです。世界の中で自分が体験しなかったことでも、一所懸命想像力を働かせようとする人をきちんと育てていければ、少しは社会がよくなるのではないか期待しています。

学生と演劇 いま思うこと

―先ほど想像力のお話がありましたが、演劇と想像力について思うところは。

演劇の魅力は普段の日常生活の中では見えない世界が見えるということだと思うんです。そういった日常と違う世界を垣間見せてくれる感覚というのが唐さんや別役さん以来の優れた作品にはあったと思います。でも最近では自分の手の届く範囲しか描かれてない作品がどんどん多くなっている気がします。もっと想像力を働かせて新しい世界を見せてくれるような作品が増えてほしいと思います。

―学生の演劇離れに思うことは。

80年代に間違って演劇ブームが起きたことがありました。演劇がファッショナブルだと思われていた時代ですね。でも、そもそも演劇ってマイナー文化だという気もするんですよ。一定時間他人に囲まれ、拘束されて観ないといけなかったりして、今の時代には即していない。一方で、身体を使った表現に対する関心は消えないでしょうから、演劇がなくなることはないとは思います。ただ、演劇をやる人と観る人は別問題ですからね。演劇なんて10本観て1本当たるかどうかのようなものですから効率主義になってきた世の中にはなかなか合わない文化でつらいなとは感じますね。でもその分、いい舞台にめぐり会えたときの感動は大きいですから、そこを我慢してつきあってほしいと思っています。

―演劇に取り組む学生に望むことは。

よく勉強をしてほしいと思います。いい作品を観に行ったり、演劇の歴史や最近の動向なんかを知って、いい演劇とは何かということを真剣に考えてほしいです。
それから自分たちが、地域や大学の、文化の担い手であるという自覚を持ってほしいと思います。今年シェイクスピアの没後400年なので演博でもさまざまな企画を行うのですが、そうした企画を学生が中心となって立ち上げてくれるといいですね。

最後に

―若い世代へ向けて、メッセージをお願いします。

とにかく他者に対する想像力を持ってください。自分の見えているものだけや手の届くものばかりでなく、自分の知らないことや見えないことにまで想像力を働かせられるようになってもらえたらと思います。

聞き手=石本秀一、小林礼奈 編集=石本秀一

取材後記

澱むことなく次から次へと多岐にわたってお話を聞かせていただきました。研究者、教育者、日本唯一の演劇博物館の館長といった多くの視点から見た「演劇」とは。やわらかな語り口の中から熱い思いを感じ取ることが出来ました。ありがとうございました。今後も演劇博物館では多くのイベントが企画されているようです。この記事を読んで演劇博物館に興味を持たれた方はぜひ足を運んでみてください。(石本)

今回インタビューに伺うことで改めて大学で文化を学ぶことの意味の大きさを感じました。そして学生が主体的に文化の担い手としての自覚を持つことが何よりもこれからの演劇のために必要なことなのだと思いました。とても貴重なお話をありがとうございました。(小林)

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