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2016年5月23日

リクウズルーム『見えないスンマ』劇評

 2016年5月3日から7日にかけて下北沢小劇場B1で公演が行われた『見えないスンマ』 劇作家・演出家の佐々木透によるソロユニット・リクウズルーム、会計演劇シリーズ第2弾の作品だ。

 5月3日プレビュー公演。開場の16時半になり、劇場に入り込む。入り口からすぐ右手に客席があり、右奥に正方形のような四角い、舞台になるのであろうスペースがあり、左手にも客席がある。四角い舞台の二辺を客席が占めている。左手の座席は列が多く高さがある。そちらの席が正面にあたるらしい。私は右手の席に座り、開演を待った。まもなく開演の19時、時計を確認していると、おもむろに舞台にむかう老人を視界の端にとらえた。老人は舞台に立つとぐるぐると椅子の周りをゆっくり周りはじめた。開演前にざわついていた客席が静まる。それは老人「二瓶鮫一」の存在感によるものだ。次第に音楽がフェードインし舞台はゆるやかに始まった――……。

 「あなた、確定申告はされていますか?」舞台は赤字の負債で解散直前に追い込まれている中堅劇団「Creative Account」。劇団を率いる主宰は蜂折ルカ。ルカは脚本家が脚本の完成を伸ばし続けていることに悩み、劇団員とともに実験的なエチュードを行うこととする。そこへ劇団の赤字は主宰が所得を隠し持っているのではという疑いを持った税務署員が乱入し、物語は加速し始める。劇団の会計という点から、中堅劇団における金銭的な負担を持ちながらも演劇を続ける劇団員たちの姿という「演劇界の闇」を描きあげた。正面が固定されないステージを、俳優が自由に動き回り立体的な躍動感のある舞台だった。

 鮮烈な印象を与えるのは劇団主宰の蜂折ルカを演じる近藤佑子だ。2人の劇団員がエチュードを行っている中に突如登場し、エチュードを自分の世界に巻き込む。始終歌うように語り、圧倒的なパワーで罵り叫ぶ。快活な喋りと凜とした立ち姿に見惚れる。またルカ以外の俳優も個性が弾け、それぞれの役と絡むたびに新鮮な感動をもたらす。特に劇団員役のレベッカの奔放な開放感のある立ち振る舞いとくるくる変わる表情に惹きつけられた。

 次々と舞台上では出来事、事件が絶え間なく展開していき息をつく間もなくラストシーンに突入する。ラストシーンではルカと澤村ひろゆきが演じる会計検査員の2人が言葉を交わしぶつけ合い、劇団について話を掘り下げる。舞台の中で、劇団員が演劇は「謎のボランティア」であると語る。チケットのノルマ、赤字を負担し昼は稽古で夜はバイトに追われる。対価の有無ではなく演劇を続ける劇団員、そして彼らをまとめ上げる劇団主宰者、しかしそれらのさらに外側から演劇を包んでいるのは劇作家以外の何物でもない。劇作家は空気のように演劇を支配する。意識しなければ演劇は劇作家の存在を感じさせず、話を展開させる。しかしどう話を進めようとも話は劇作家の手中に収まるのだ。劇の最後には劇作家がそれをぼやく。劇作家はその顔に柔らかい笑みをたたえながらも、その姿はどこか物悲しいように思えてならなかった。

 1時間半の舞台はあちらこちらにスパイスがばらまかれ、刺激的で疾走感溢れるものだった。演劇の世界は遠いところにある。観劇後ぼんやりと思った。『見えないスンマ』では演劇の世界の深淵を覗き込み、自分が生きる日常の世界との乖離を感じた。いうなればそれは疎外感なのかもしれない。観劇を通して感じていた熱は遠くから私が目を細めてやっととらえていたもので、本当の演劇はもっと熱く、力強いものであるのはないか。そう思われてならず、「自分の観ている演劇」について深く考えさられた。(黒田)

(敬称略)

【公演情報】
リクウズルーム『見えないスンマ』 
作・演出/佐々木透
2016年5月3日(火・祝)~2016年5月7日(土)
下北沢小劇場B1