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2017年11月9日

フェスティバル/トーキョー17『アイ・アム・ノット・フェミニスト!』劇評

 秋の寒空の下、オフィス街の外れのビルの屋上ではある二人の結婚式が行われていた。それはひっそりと、しかしはっきりとした訴えとたっぷりの好奇心に満ちた予想もつかないものだった。  

 夜の暗闇から姿を現した遠藤麻衣は観客の前で花嫁衣装に着替えると、実の夫である村山悟郎と共に結婚式を“開演”させる。まず二人が行ったのは「離名の儀」。自身の名字を透明なガラスの板に書き、それを水槽にいれて文字を浮かび上がらせる。そうして家柄、血筋といった意味をもつ名字を切り離した二人は、対等な関係で夫婦同姓でいるために今後3年毎に離婚し名字を交換して再婚していく。それが彼らの間で交わされる彼らなりの婚姻契約だ。婚姻届が受理された瞬間からそれまでの人生で使い続けてきた名字が実感を伴わずに変わってしまう、改めて考えると本人にとっては非常に感慨深い事だろうと水に溶けていく文字を見て気づく。同時に、この離名を二人ともが行うことによって、本来女性だけがその感慨深さを感じる必要はないはずなのだとも気づかされる。結婚したら女性が男性の名字に変える、当然のように思えていたこの事柄の根底にある家父長的な思想に遠藤は違和感を抱いたのだろう。  

 次に行われた「腕噛みの儀」では、一枚の紙を挟んで新郎新婦が互いの腕を噛むというものだった。傷つけてしまう時があっても痛みは共に分かつ、それを形にして参列者ー観客ーに見せることで対等な夫婦の関係を、さらに参列者の中から選ばれた人にも腕噛みをすることで夫婦として社会で関係を築いていく覚悟を誓い合っているように思えた。  

 「契約署名の儀」では自分達の夫婦関係に沿って遠藤が考案した婚姻、離婚、夫婦財産などについてのこの二人だけの契約条項を読み上げ、署名する。先述した離婚と再婚を繰り返して名字を変えていくこともこの契約の一部だ。この奇妙な婚姻契約を見届けると、ふたりは退場し終演となる。  

 赤坂の夜景をバックに純白の布が風に煽られて一斉にたなびく空間はとても神秘的で、人々の間で理想化された「結婚」という存在によく似合っていた。また上演前後に流れるラップの歌詞は日常に溢れるモヤモヤとした感情を訴えるようで、屋上という本来開放的な場所であるにも関わらず遠藤の頭の中に入ってしまったような不思議な空間だった。  

 『アイ・アム・ノット・フェミニスト!』と銘打たれたこの作品は、「結婚」をテーマとした7つの展示作品と約30分間の上演で構成される。展示は会場の東京ドイツ文化センター内のアパートにて。夫婦が実際に滞在してこの作品を制作したという部屋で、上演に至るまでのドキュメンタリー『二人のあいだで、約束事をちゃんとしておいた方がいいと思うの。』やカメラに向かって女性差別反対を訴える『泣く女』といった映像作品と、美術家でもある遠藤の手描きの作品達、そしてここで過ごした夫婦の「生活感」そのものが展示物となっている。上演の後に展示を観覧した私にとっては謎に満ちた結婚式の解決編といった感じで、中でもドキュメンタリーはこの作品を理解する上で夫婦生活のどんなところから遠藤が着想を得たのかが見られ特に楽しめた。  

 フェミニズムな要素が強い内容でありながらつけられた『アイ・アム・ノット・フェミニスト!』という題には、ただ女性の権利を社会に訴えようという単純な発想からこの作品を制作したのではないのだと感じられる。結婚は法律で定められた契約であると同時に、個々人の生活の中心部分、非常に私的なものでもある。結婚の在り方は夫婦の数だけあり、社会的な制度だけにとらわれない自由な結婚関係を結んでいいのではないか、というのがこの作品のはじまりだったという。そしてどうしたらこの結婚という制度を自分達のものとして遊べるか、それを突き詰めていく中で出てくるのは日本の婚姻制度に根付く男尊女卑的な思想。男が養い、女が支える、この夫婦関係は古くから歴史の中で自然に形成されてきたもので、それに慣れ親しんだ私は特に疑いを持つことすらなかった。しかし改めて考えてみればどうか、世界各所で婦人運動が起こり男女平等が唱えられるようになった現代で、凝り固まった「夫婦関係」をなぞる必要があるのか。上演も展示も、そんな問いかけをひしひしと感じる空間だった。  

 今回で10回目となるフェスティバル/トーキョー、結婚を制作するという遠藤麻衣の無邪気で新たな試みは、おそらく観客それぞれの結婚観を形成していく要素として衝撃的なものになっただろう。私は未婚の女性だが既婚者や男性の観客はまた違った視点で作品に触れているのだろうし、年齢によっても感じ方や思う事に相当なバリエーションがあるのではないだろうか。結婚という誰にとっても身近な存在だからこそ様々な可能性を孕んでいる、作品のテーマとしてとても興味深いものだった。(中村彩美)

【公演情報】
フェスティバル/トーキョー17主催プログラム
まちなかパフォーマンスシリーズ『アイ・アム・ノット・フェミニスト!』

作・演出・出演:遠藤麻衣